東京地方裁判所 昭和25年(ワ)6203号 判決
原告 同和鉱業労働組合連合会
右代表者 中央執行委員長
被告 同和鉱業株式会社
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
(甲) 原告訴訟代理人は「被告は別紙目録記載の者に対し同目録賃金額欄記載の各金員及びその各八割を支払え、訴訟費用は被告の負担とする」との判決及び仮執行の宣言を求めその請求の原因として次のように述べた。
一、原告は被告会社の事業所毎の従業員をもつて組織する同和鉱業本社社員組合、小坂鉱山労働組合、花岡鉱山労働組合、柵原鉱業所労働組合(以下柵原労組という)の連合体としての法人格ある労働組合であり、被告会社との間に労働協約を締結し(昭和二十四年九月七日締結同月一日から一年間有効)団体交渉権を持つている。被告会社は資本金二億円のわが国屈指の硫化鉱会社で前記小坂、花岡、柵原に事業所を有し社業隆盛であつて本年三月末決算においては一割五分の配当をなしている。而して原告は全日本金属鉱山労働組合連合会(以下全鉱という)に加盟し、被告会社は鉱山経営者連盟(以下経連という)の構成員であるが、全鉱と経連間には労働協約が締結せられている。
二、昭和二十五年二月以来全鉱と経連間に賃上の交渉が行われ、同年三月十五日一人月額三百円ないし六百円の増収を各加盟組合、会社毎に折衝し決定すべき旨の協定(全鉱協定)が成立したので、原告は同月十六日被告に対し月額六千円ベースの賃上要求をなし団体交渉に入つたが、被告はこれに応じないので原告は同十六日被告に対し同月十九日午前零時から部分ストを含む無期限ストを行う旨通告し同時に柵原労組外各加盟単位組合に指令した。
柵原労組は原告の指令に従い同月十八日右同旨の通告を柵原鉱業所になし、同月十九日、日曜(休日)のため全員就業せず、スト期間中の時間外労働拒否を通告し、同月二十日鉱石積込作業を抛棄し、同月二十一日「のみ」焼員全員二十名の職場抛棄をなし、同月二十二日鉱石積込作業一の方(昼間作業)二の方(夜間作業)とも三百五十瓲(平日の約半減)積込後職場抛棄をなし、同月二十三日午前五時から全面ストに入り同月二十五日午前五時中央交渉による争議妥結後全部作業を開始したものである。
三、ところで被告会社柵原鉱業所は、右争議中の三月二十一日別紙目録記載の百九十四名を含む二百六名(内訳「さく」岩員全員九十二名、「のみ」運搬員全員三十五名、火藥運搬員全員十二名、係員雑役員各一名、運搬員六十三名、機械運搬員二名計二百六名)の柵原労働組合員たる従業員に対し、職制を通じてそれぞれ同月二十二日一日間の休業を命じたが、同人等は同日の各勤務時刻に勤務場所に至り就労しようとしたところ被告側はこれを拒否したため就業することができなかつた。
かように右百九十四名が同月二十二日に就業できなかつたのは被告会社の受領遅滞にもとずく履行不能というべく同人等は労働基準法第二十六条所定の休業手当を要求できるのは勿論、民法第五百三十六条第二項によつて同日分の全額の賃金(別紙目録記載)請求権を有する外、労働基準法第百十四条により附加金の支払を求め得るものであるが、前記全鉱対経連間の労働協約第十三条によれば会社の責に帰すべき休業については賃金の八割を支払う定めになつているから右三月二十二日分の賃金全額及びその各八割の附加金の支払を求めるため本訴請求をなす次第である。
(乙) 被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め次のように述べた。
第一、原告の主張事実中の一の事実、二の事実のうち原告が柵原労組外各単位組合にストの指令をし柵原労組がこの指令に従つたとの点、三月十九日の全員不就業の理由が休日であるとの点を除くその他の事実、三の事実中柵原労組の組合員である別紙目録記載の百九十四名に対して休業を命じ三月二十二日同人等の労務提供を拒否し同人等が就業できなかつた事実はこれを認めるがその他の事実はこれを争う。
第二、被告が昭和二十五年三月二十一日右百九十四名に休業を命じ翌二十二日その就労を拒否したのは、原告加盟組合たる柵原労組がこれより先同月十八日のスト通告後原告主張のような争議行為をしてきたのでこれに対抗する争議手段としてとつた措置であり、正当な争議行為である以上同人等を就業せしめる必要のないことは勿論賃金支払の義務を負うものではない。
のみならず次に述べるような争議経過や柵原労組の争議行為たる部分ストが関連職種の作業ひいては全山の作業を痲痺させるようなものであること、その他数々の違法性を含むことに徴し、被告がこれに対して本件の措置に出たことは、緊急やむを得ない最小限度の防衞の必要に基くものであつて正当な争議行為であり賃金支払の義務がないことは明かである。
第三、本件争議行為前後の経過は次の通りである。
一、本件部分的ロツクアウトに至るまでの争議経過
(一) 全鉱対経連の中央交渉
従来金属鉱山事業では賃金水準に関する交渉は各個別企業の経営者を以て組織する経連と各企業毎の労働組合を以て構成する全鉱との間に昭和二十五年一月二十一日締結せられた労働協約第一条にしたがい中央においてその標準額を協定し、構成員たる各個別企業の具体的賃金水準は当該企業の実情を勘案し、右の中央協定の範囲内において個別経営者とその企業内の労働組合とがその具体化交渉をなすこととなつていたが、被告会社及び被告の各鉱業所毎に組織されている各労働組合(本社、柵原、小坂、花岡)はそれぞれこの協定の当事者であるところの経連並に全鉱の構成員となつていた。
今次労働争議はその遠因を昭和二十四年八月全鉱から経連に対して要求した新賃金八千八百円ベースの賃金交渉に発する。
この要求をめぐる交渉はその後全鉱と経連との間に屡々重ねられたにも拘らず、労使の意見はついに妥結をみるに至らず、昭和二十五年にまで持ち越された。時恰も労働情勢は国会共同闘争委員会の提唱にかゝわる三月闘争に呼応して、漸次活溌なる運動を展開する状況にあつたが全鉱は二月二十五日付文書を以て経連に対し二月二十六日から三月六日まで保安に関する遵法運動を展開し争議行動に入る旨通告を発し更に同日附闘争宣言においては三月七日から全国一斉に無期限ストを実施する旨を宣言した。これに対し経連からは抗議及び通告をなしその反省を求めたが、全鉱はついに構成員たる各傘下労働組合に対し争議指令を発するに至つた。
柵原労組はこの全鉱の指令にしたがい二月二十六日以降三月六日まで保安遵法闘争を展開し続いて三月七日には三月八日午前五時より三月十日午前五時まで四十八時間ストに入るべき旨を被告会社に通告して来たのである。被告会社では労働組合のこの通告は「被告対原告間の労働協約第二十六条に定める会社若しくは連合会又はその加盟組合が争議行為を行う場合は交渉決裂の後であつて少くともその四十八時間前に相手方に対して予告をしなければならない」との義務に違反するものであることを警告したが、労働組合は三月八日からは通告通り四十八時間ストを実施した。そして更に三月十日からは無期ストに入り三月十五日午後五時全鉱対経連の中央交渉妥結に伴うスト中止の通告にいたるまでこのストが継続したのである。
(二) 被告と原告との交渉経過
全鉱対経連間の賃金交渉は三月十五日に至り漸くその妥結を見て双方の間には
(1) 同年四月以降九月までの賃金については男子成人坑外夫一ケ月三百円ないし六百円の増収をはかる。但し支払能力によつては増収額三百円ないし六百円を上下することを妨げない。右三百円ないし六百円増収の支給方法については各企業の実情により協定するが六月末までに基準賃金について双方検討する。
(2) 右増収額の決定に伴う賃金体系の整備について各社毎に三月末日迄に協議決定する。
(3) 同年三月以前の紛争を速かに解決するために現在の支払能力を勘案の上一時金(一―三月間賃金問題解決のために特にとられた措置に対する金額を含む)として五百円ないし二千円を支給する。これが支給金額方法等の具体的措置については各社毎に協議決定するが、支給時期については四月十五日までに支払うよう努力する。
旨の仮協定が成立した。そこで原告からは直ちに同日夕刻被告会社に対し右協定に基き賃金の具体化を目的とする団体交渉を申入れて来たので被告会社はその交渉に応じたが三月十六日には文書を以て三月十五日全鉱対経連間に結ばれた賃金に関する協定書に基き被告会社は(一)基準賃金として男子成人坑外員六千円(二十五日稼働)男子成人坑内員八千八百円(二十二日稼働)を四月一日以降支給すること及び(二)三月以前の一時金として一人当二千円を三月三十一日支払うべきことを要求して来た。これに対し被告会社は同日(三月十六日)付を以て(一)、四月以降九月までの賃金増収の措置としては(イ)管理職を除く社員一人平均六百円を会社支出額の限度とする。(ロ)さきに社長の発表した期末賞与支給の件は取消す。(ハ)右(イ)の条件の下に基準賃金中操作給を増額する建前を以て基準賃金を改訂することとしその具体的内容については別途協議し三月末迄に決定する。(ニ)右(イ)及び(ロ)の措置実施については次の事項を条件とする。(1)基準生産量(出来高払制の基準量を含む)につき検討し三月末迄に結論を得ること。(2)現行賃金協定中の「近く家族給を廃止して能率給に移行する」という方針に従い六月末までに結論を得ること。(3)厚生費を検討整理し廃止しうるものは廃止しこれが財源を以て厚生施設の充実又は基準賃金への繰入れを実施し会社において徴収するものは徴収するという方針に基いて六月末までに結論を得ること。(二)、三月以前の紛争解決のための一時金としては(イ)金額的には管理職を除く社員一人平均二千円を支給する。(ロ)昭和二十四年十二月二十二日締結の協定に基く貸付金五百円は右一時金より回収する。(ハ)右一時金の配分方法並びに支給時期については別途協議する。旨を回答したのである。
然るに原告においては、依然としてさきの要求額を固執してゆづらなかつたので、労使の交渉はついにその妥結点を見出すことができなくなり、原告は同日(三月十六日)午後六時四十五分にはついに交渉を打切つて三月十九日午前零時から部分ストを含む無期限ストに入る旨を被告会社に対し通告して来た。
被告会社は直ちに各鉱業所に対しその旨電報を以て連絡したが、柵原鉱業所においては翌三月十七日午後四時から柵原労組の大会が開かれ、(1)全鉱対経連間の賃金に関する仮協定書を承認するの件、(2)スト指令権を原告連合会中央闘争委員会に委任する件、の二件が審議され結局右二件は多数決により決定を見るに至つたのである。
(三) 柵原鉱業所と柵原労組との交渉経過
超えて三月十八日午前十時二十五分頃になつて柵原労組は被告会社に対し「さきに連合会より会社側に通告したストライキ実施に関し、当組合としては三月十七日第十六回臨時大会の決議に基き三月十九日午前五時から無期限ストに突入することを通告する。なお具体的事項については貴方と団体交渉において協議致したい」との通告をなして来た。
被告会社は組合に対し直ちに保安要員に関する団体交渉を申入れ午後一時二十分から交渉にうつつたがその席上被告会社は「労働組合がなお交渉の余地があるにも拘らずただ一日の中央交渉を重ねたのみで争議に入つた今回の措置は遺憾なことでありしかも中央における不充分な交渉が決裂したからといつて直ちにストに入るようなことでは単位組合である柵原労組には自主性が欠けているといわざるをえないこと、今後部分ストを実施するような場合には事前に通知すべきこと」等を申入れ結局三月二十日は保安要員については平常通り就業することを条件として三月十九日の争議に関する保安要員百六十九名を決定した。
次いで三月十九日柵原労組は通告通りストライキに入つたが同日午後四時頃には「三月二十日一日間各番方の貨車積込作業を抛棄する。但し電話連絡のための必要な人員は認める。」旨の部分スト通告並びに同日「三月二十日午前五時より無期限スト決行中は時間外労働の一切を放棄する。」旨の時間外労働中止を被告会社に対して申入れてきた。
翌三月二十日には貨車積込作業を担当する従業員はその職場を放棄した。正常な作業状態であれば礦石の貨車積込量は一日平均一、四二二噸に上るが貨車積込作業が放棄されたためこの日は礦石は全然積込まれることなく滞貨となつてしまつた。
そして柵原労組は同日午後二時三十分頃更に「三月二十一日には(一)「のみ」焼員全員二十名が職場放棄をすること、並びに(二)積込作業の一の方は三百五十噸を積込み終了後職場を放棄すること及び同二の方も同じくこれに準ずる。」旨の通告をなして来たのである。
二、部分的ロツクアウト実施以後の争議経過
そこで被告会社は柵原労組に対して文書をもつて「三月二十日附をもつて通告された部分スト実施の件は正当な争議行為として認めない。よつてこれにより生ずる損害並びに関連して生ずる諸問題については勿論貴方の部分スト通告により職種によつては休業のやむなきに至るがその責任は貴方にあることを通告する」旨を申入れ同労組の反省を求めた。
超えて三月二十一日には同労組は通告通り「のみ」焼現場全員の職場放棄及び一の方並びに二の方各三百五十瓲積込以後の積込作業放棄を実施した。会社では右の実情に基き前記組合宛通告を発したのであるが、三月二十一日現実に「のみ」焼現場における職場放棄の事実を確認したので当日の朝場内掲示板を用いて「のみ」焼放棄により直接影響を受ける関連作業として「さく」岩員八十六名、鉱石運搬員の一部六十一名、「のみ」運搬員三十三名、火藥運搬員十名、係員一名、内雑員一名、運転員二名につき明三月二十二日は仕事がなくなつたので休業されたい」旨それぞれ氏名を明示して周知させた。同労組は被告会社のこの措置に対して説明を求めるため団体交渉の申入をしてきたので被告会社はこれに応じ、更に同労組に対し文書をもつて休業せしむべき組合員の氏名等を通告した。
柵原労組は三月二十一日付文書を以て「三月二十二日には積込作業一の方三百五十噸積込作業終了後職場を放棄すること、二の方も亦同じくこれに準ずる。」旨の部分スト通告をなして来た。
そして三月二十二日には同労組は通告通り貨車積込作業の一の方及び二の方ともそれぞれ三百五十噸を積込んだ後職場を放棄した。一方被告会社がかねて掲示並びに同労組宛通告を以て同日の出勤を停止していた「さく」岩、「のみ」運搬、坑内運搬の一部火藥発破の各作業に従事する従業員及び内雑員計百九十四名は同労組の指令により所定出勤時刻に坑口番割場に参集し番割を求めたが、各所属係長から本日は「のみ」焼作業の部分ストにより関連職種は仕事をすることができなくなつたから帰つてもらいたいとの通告を受けたので、右全員は一応組合事務所に引あげた。その後同労組の代表者は労務課へ来て本日就業を拒否せられた者に対しては賃金を保証してもらいたいと要求したが被告会社はこれは組合の部分ストの結果生じたもので責任は組合にあるから賃金の保証はできないと回答した。
その日引続いて労働組合は会社に対し文書を以て、本日会社のなした「さく」岩員等百九十四名に対する就業拒否は労働者の正当な争議行為を無視した不当な報復手段であつて就業不可能な状態とは認めない従つてこれによつて生ずる事後の作業に対する影響は組合の関知するところでなく一切の責任は会社にある旨を通告してきたが会社は折返し「本件に関しては労働組合の部分スト実施により生ずる自然発生的原因であつて会社にその責任はない」旨を回答し、組合が一方においては部分ストにより会社の収入の途をふさぎ、また関連部門の作業に支障を来すような争議行為を行いながら、他方では賃金の支払を要求するようなことは明かに関連職場を含めた業務妨害であり、会社がこれに対して行つた就業拒否については何ら会社側に責任がないことを明瞭にした。
その後会社は組合から同日午後一時頃「中央指令に基き三月二十三日午前五時から全面ストを決行する。」旨口頭の通告を受け、翌三月二十三日から二十五日午前五時中央における賃金交渉の妥結[基準生産量の引上を条件とする協定(乙第十号証)]を見るまでは全面ストが継続されたのである。
第四、柵原労組の争議行為の特性並びに違法性は次の通りである。
一、柵原労組の部分スト(鉱石積込スト、「のみ」焼職場のスト)により直接関連職種の作業を休業せしめざるを得なかつた理由
前述のように柵原鉱業所においては三月十七日の無期限スト通告以来あるいは二十四時間全山スト、積込作業の完全抛棄と矢継早な争議行為が展開せられ現場における作業状態は漸次無秩序状況に移行する危険があつたが、この時に当つて、同労組からは三月二十日をもつて「のみ」焼職場の全員職場放棄及び積込作業の一部抛棄を含む部分ストの通告に接し、被告会社は、事態がいよいよ重要なる段階に突入したことを痛感せざるを得なかつた。というのは時あたかもそれが予め宣言せられた無期限スト期間中のことであり、他面当時は相次いで電産ストが実施せられていたので今後展開せられる労働者側の争議戦術はいかなる方向に発展するかも測られず事態の推移如何によつては全山の作業が痲痺状況に突入する危険も感ぜられたからであつた。三月二十一日には通告通りの「のみ」焼職場全員の職場抛棄が行われ、又翌日には鉱石積込作業の一部職場放棄が行われることになつていたが、かゝる「のみ」焼職場のストは被告会社をしてこれと直接関連する作業を自働的に休業せざるを得ない状況におとしいれた。
すなわち、「のみ」焼現場というのは坑内切羽において「さく」岩用に使用し磨耗した「のみ」を研磨しこれに焼入作業を施すことによつて新なる使用にそなえる作業をなす職場であり「のみ」焼時間は八時から十四時までである。切羽現場において使用した「のみ」は「のみ」運搬員の手によつて運搬され翌日「のみ」焼現場において研磨焼入作業をなしその翌日は同様「のみ」運搬員の手を通じ切羽現場における使用に供する慣例となつており、(従つて「のみ」焼場で焼直しされた「のみ」が切羽で使用後再び「のみ」焼場に帰つてくるのは四十八時間目である)「のみ」焼現場は常に切羽現場の需要に応ずるための働きを準備しているので到底予備品までも貯えて置くだけの余裕がない実情にあつた。(かゝる場合、予備品を貯蔵しないことが業界の慣行であり、且つ経営技術上当然のことでもあつた。)従つて「のみ」焼職場における作業の休止はたといそれが僅か一日間の休止であつてもその翌日は「さく」岩現場(すなわち採鉱場所)における作業全部の休止を招来するの余儀ない結果となり、ひいてこれに関連する火藥発破作業、坑内運搬作業、坑内昇降機運搬作業、「のみ」運搬作業等に対する完全一日間の手待状態を現出することとなるのであつて、その具体的関係は次のようになるのである。
(一) 「さく」岩員八十六名
「さく」岩員は「さく」岩機を使用して岩盤又は鉱脈に穿孔しこれに火藥を裝填して爆破することをその主たる職務内容とし、その作業時間は九時から十四時三十分までである。「さく」岩員が切羽において実際に使用する「のみ」はその前日八時から十四時までの間に「のみ」焼場において焼直され、同日十四時から十五時までの間「のみ」運搬員によつて運搬坑道堅坑プラツトまで運搬され、十七時から二十三時までの間に材料運搬員によつて堅坑を通じ各所坑道「のみ」置場まで降ろされ、翌日(即ち「さく」岩を現実に使用する日)の九時から十一時までの間に「のみ」運搬員によつて坑内切羽まで運搬されたものである。又「さく」岩員が使用した磨耗「のみ」は、その日の十三時から十四時三十分までの間に「のみ」運搬員によつて各所坑道「のみ」置場まで運搬され、十七時から二十三時までの間に材料運搬員によつて堅坑を通つて運搬坑道堅坑プラツトまで運び上げられ、翌七時から八時までの間に「のみ」運搬員によつて「のみ」焼場まで運搬される。このように「さく」岩の使用済の磨耗「のみ」が「のみ」焼場に於て焼直されるのは使用日の一日後となりこれを連日繰返す関係上坑内切羽に予備「のみ」(以下スペヤー又はスペアーという)が皆無であつたと仮定すれば「のみ」焼場を一日操業停止することによつて翌日切羽で使用すべき「のみ」は零となり「さく」岩作業が不能になるのは理の当然である。又たとい「のみ」焼場が停止することなく平常作業量の焼直しを行つたとしても坑内における「さく」岩機稼働台数が増加すれば「のみ」不足は直ちに「さく」岩能率に重大なる影響を与えることは論を俟たない。かくの如く「さく」岩作業と「のみ」焼作業は特に表裏一体であり常に緊密なる連繋が保たれなければならぬ。
焼直し「のみ」の回転が何等支障なく劃一的に行われるとすれば「さく」岩作業終了後の切羽及び「のみ」焼作業終了後の「のみ」焼場には磨耗、非磨耗「のみ」は零になる筈であるが実際は「のみ」運搬の時間的な関係と故障の場合を考慮して予備「のみ」を主として坑内に用意しておかねばスムーズの回転並びにノルマルな作業は不可能で此のスペアーを一つのクツシヨンとして少々の故障によつては相手方に影響を及ぼさないようにしている。即ち各坑道堅坑プラツト「のみ」置場からの切羽の距離及び運搬系路等によつて「のみ」の運搬が「さく」岩作業開始迄に間に合わぬ場合が可成りある関係上切羽への「のみ」到着迄に使用する「のみ」はスペアーとして適当数切羽に常置しておかねばならない訳であり又その逆に磨耗「のみ」の運搬も作業終了時刻が同一なるため可成り切羽に残留するのが普通である。三月二十一日「のみ」焼員全員の職場放棄によつて当日朝運搬された磨耗「のみ」は一本も焼直しされずしたがつて当日午後坑内に運搬すべき焼直し「のみ」は坑外にスペアーとして存置した太棒(三番八本、四番六本)細棒(口切九五本、二番三九本、三番一本、四番一六本、五番一本、六番一本)だけで最も必要としていたD八九、七L「さく」岩機用太棒の口切二番は一本も無く翌二十二日の「さく」岩作業は明瞭な数字は不明であるが五〇〇本程度の坑内切羽スペアーによる外はなかつた。
然るに当時は平均稼働「さく」岩機台数三〇台に対し「のみ」焼本数五五〇本程度であつて「さく」岩機一日一台が充分に使用した場合の「のみ」本数二五本には遙かに足らぬ日が続きしたがつて坑内のスペアーも次第に残り少くなり「さく」岩員は「のみ」運搬時刻迄切羽にて手待ちする箇所も増加する状態で「のみ」焼場の残業による焼直新「のみ」製作が要望されていたこととてスペアーだけによる一日の操業は全然不可能であつた。もし仮りに坑内各所に分散する此等スペアーを集めて「さく」岩作業を遂行しようとしても蜿々数十粁に及ぶ箇所からの蒐集は「さく」岩員「のみ」運搬員全員を以てしても半日以上を要しその「のみ」本数も十数台を稼働せしむるにすぎず到底ノルマルな作業は望むべくもない。
強いてこれを行えば翌二十三日は全切羽が「のみ」到着迄「さく」岩作業を開始することが出来ず「のみ」焼場は平常磨耗本数以外にスペアーの製作も行わねばならなくなるが当時の「のみ」焼場の状態並びに「のみ」運搬員の能率不良の有様では明らかにオーバーロードであり順調な作業行程に回復するためには十数日を以てしても尚覚つかないと判断され二十二日の「さく」岩作業及びこれに随伴する作業員は休業させざるを得なかつた。
なお、「さく」岩員の請負作業に対し「のみ」運搬員は本番作業であつて能率が悪く磨耗「のみ」の坑外搬出が充分行われず磨耗「のみ」の切羽残留数が増加しこれが「のみ」焼は新「のみ」製作に余分の労力を払わねばならなかつた。新「のみ」製作本数の月別成績は二、三、四月と漸増しているが「さく」岩能率の増加によるばかりでなく「のみ」運搬員の労働低下が坑内のスペアーを漸減せしめていたことは否定できない事実である。
このような状態における「のみ」焼員全員の職場放棄は完全に「さく」岩作業並びにこれに伴う運搬作業を麻痺させるものであることは火をみるよりも明らかである。
(二) 「のみ」運搬員 三十三名
「のみ」運搬員は「のみ」焼場から降された研磨「のみ」を「さく」岩現場(切羽という)へ運搬配布し並びに「さく」岩作業によつて使用済の磨耗「のみ」を切羽から回收して各所坑道「のみ」置場まで運搬することを主たる職務内容とし、その作業時間は前記の通りである。「のみ」運搬員は三月二十一日「のみ」焼職場のストにより翌二十二日運搬すべき「のみ」がなく又同日の「さく」岩作業がないために休業させた。
(三) 火藥運搬員 十名
「さく」岩員全員が休業したため発破作業がなくなり従つて火藥運搬員はその仕事がなく休業せざるを得なかつた。
(四) 直接指導職 一名
火藥運搬をやめた関係上直接指導職たるその職長は仕事がなくなり休業せざるを得なかつた。
(五) 内雑員 一名
この内雑員は「さく」岩試験の補助をしていたが他の「さく」岩員が休業したため仕事がなくなつた。
(六) 運搬員 六一名
運搬員は鉱石の運搬作業を行うものでありその主なる業務区分としては、(1)、鉱石の手盛(機械盛)込作業、(2)、漏斗拔(各番坑で投入された鉱石を主要番坑で一括して、拔き取り堅坑え運ぶための)作業、(3)、鉱車中押作業(盛込現場から漏斗又は堅坑迄の鉱石運搬)、(4)、鉱車廻し(堅坑における空鉱車と鉱石の入つている鉱車の入換作業)、(5)、大割作業(塊鉱を盛込に便なるように玄能(ハンマー)により小さく破碎する作業)等がある。又運搬員の就業区分は各地域(各鉱体、番坑別)に一定している。これらの地域には採掘方法や切羽の条件によつて多くの鉱石を貯蔵し得る箇所と採掘と運搬とが隔日毎に繰返される貯蔵不可能な箇所とがあり、前者の場合は一日ないし数日採掘作業を行わなくても貯鉱を搬出することによつて運搬作業に支障を来たすことはないが、後者の場合は採掘作業を一日中止したとすれば翌日の運搬作業は貯鉱がないため不可能となり、又逆に運搬作業を中止すれば貯蔵があるため翌日の採掘作業は不可能となり切羽で、この様な切羽は主として上部(六番坑以上を上部、七番坑以下を下部という)で下部には殆んどない。三月二十一、二日当時下部は一部を除いて相当な貯鉱があつたが上部は一般的に貯鉱なく前日「さく」岩が発破をかけた分を翌日盛込むというようにその日暮しの状態であつたが、二十二日「さく」岩作業をやめて二十二日運搬が稼働し鉱石を取つてしまえば二十三日は仕事することが出来なくなる。而も当時は積込の部分ストも行つていたため二十一日選鉱場貯鉱量三、二六八屯で二十二日正常に鉱石を出せば一日一、四〇〇屯として四、六〇〇屯となり選鉱場の最大鉱貯能力四、〇〇〇屯に対してオーバーすることになる。二十二日一の方で貨車積込三五〇屯をやつても選鉱場で処理不能になる。故に上部鉱体の手盛運搬員は一箇所(六番坑十八条十五号は貯鉱があつたため八名稼働)を除いて残りは全部休業し又下部の一部で上部と同じ理由にある九番坑に勤務する小林孝志、福田光夫、牧野新、垂井浅夫、西山信行、高田清一の六名に対して休業せしめざるを得なかつた。
(七) 坑内運転員 二名
坑内運転員は坑内設置の捲揚機、排水ポンプ電車等の運転作業を行うものであるが上部運搬員が休業したため上部の鉱石が出ず従つて四番坑電車運転員二名は作業不能となり休業せしめた。
二、柵原労組が開始した争議行為は積極的な業務妨害の意図に出たものであつて本質上違法な行為である。
柵原労組は三月二十日まず一部分を除く貨車積込作業の大半を停止し、続いて翌二十一日には前日に引続き貨車積込作業並に「のみ」焼職場それぞれについての部分ストを実施したのであるが、この争議手段を通じてわれわれは積極的な業務妨害の企図の伏在を看過することはできない。
すなわち柵原鉱山における直接生産作業は「さく」岩、(採鉱)、坑内運搬、選鉱、碎別、積込の各工程を経て実施せられるのであつて、坑内において採掘された鉱石は坑内運搬夫によつて運搬せられ堅坑を通ずる昇降機によつて坑外に捲き上げられ選鉱、碎別作業を経て坑外運搬夫により構内の引込線のプラツトフオームに運搬せられ貨車に積込まれ発送せられるのである。坑内の貯鉱は適時坑外に運搬せられ、また選鉱碎別せられた鉱石は順次貨車に積込まれることによつて各作業が停滞することなく円滑に進捗して行くのであるから、仮に貨車積込作業を停滞し、その限度を超えるときは選鉱、碎別作業に直ちに影響し逐次選鉱場の貯鉱量の増大がその收容能力を超えるに至れば順次坑内運搬の停滞、坑内貯鉱の増加を来しひいては坑内の「さく」岩、採掘作業を手控えざるを得ない結果となるのである。
また、問題となつている「のみ」焼職場においては、切羽(採鉱場所)において「さく」岩員が日日使用する「さく」岩機用の「のみ」の磨耗を修理研磨し、「さく」岩作業に支障なからしめるよう作業をしているのであつてその職場はいわば鉱山における直接生産作業を直接に誘引する起動力ともいうべき重要なる作業を担当する職場なのである。従つてこの職場が部分ストを実施することによつて鉱石の採掘は直ちに停止されるの已むなき状況となり、従つてこれに関連する作業は順次工程を追うて休業せざるを得ないこととなる。この争議行為は部分ストとは称するものの実質的には一種のサボタージユであり欧米労働法学説にいわゆる積極的業務妨害戦術というべきものである。
以上述べたような次第であるから労働組合が三月二十日及び二十一日の両日に実施した貨車積込作業と「のみ」焼作業の各部分ストなるものはいわば鉱山における生産工程の最初の段階及び最終の段階双方の機能を停止することによつて、当然予見しうる鉱山全体の作業の痲痺状態を招来しようとする意図のあつたものであることは容易に推断しうるのであつて、しかも一方においては正式通告の内容に含まれていない関連職場の従業員の賃金請求権は留保しつつ、あえてこれを実施しようとした点は、本来フエーアプレーたるべき争議の法理に違反する許すべからざる処置であつたといわざるを得ない。
かような争議手段は明かに法の許容しえない違法の行為である。勿論、争議行為において加害意思の存在するものであることを否認するものではないが、その場合の加害意思は正当なる目的と公正且適正なる争議手段に出るものである場合に限り違法性が阻却せられ正当行為として認定を受けるものであることを知らねばならぬ。加害の目的とそれを達成せんとする手段との関連において不公正視さるべき争議行為が法の保護に値するものでないことは何人も疑ないところであろう。
このようにして本件のいわゆる部分ストは表面争議行為を僞裝してはいるが実質的には明かに積極的な業務妨害をねらうものであり、それ自体争議行為の範囲を逸脱した違法行為であるということができる。
サボタージユは怠業の如く単なる労務停廃(消極的行為)から成立するものではなくて、消極積極の両面行為を巧みに併用することによつて企業の全部又は一部を痲痺せしめんとする妨害行為だとされている。本件いうところの部分ストなるものは、性格上まさにこの種の痲痺戦術たるサボタージユに該当すること上述の通りであつて、従つてストライキ理論の適用を受くべき単純なる部分ストをもつて論ずることは許さるべきでない。
しかも本来サボタージユ行為は、なおその思想的背景において許すべからざるものあるを知らねばならぬ。それはサンヂカリズムの直接行動主義の危激思想に淵源したものだという点である。
右のように、サボタージユたる本件のいわゆる部分ストは、その不公正なる労働行為たる方面よりしても、なおまたその危激たる思想的背景を有することに徴しても、違法なる争議行為たること明かである。しかもそれは前述の如く、消極積極の両面行為から成るものであつて、いわゆる部分スト参加者のみならず、これらと関連ある作業部門の積極的実働者とを合わせた総員が一団の争議行為者(サボタージユ関与者)と見らるべく、通常の場合の如く、部分スト参加者のみを争議行為者として取扱うことは許されないのである。従つて現実に労働に従事した者であつても、この意味では争議行為者としての責を免れ得るものではない。
尚本件の如き争議行為は私法上の問題としてもいわゆる積極的債権侵害の内殊にシカーネに属するものとしてその正当性を否認せらるる行為である。
本件の争議行為は三月二十一日には(一)「のみ」焼員全員二十名が職場放棄をすること並びに(二)積込作業の一の方は三百五十噸を積込み終了後職場放棄をすることによつて組合側は之に関連して翌日から惹き起こさるる全山の作業の痲痺状態をネラツタものである。即ち労務者の債務不履行は一少部分であるが翌日から当然予想せらるる全部の混乱を目的として為された点に於てシカーネと称し得るのである。即ち一般的法理論に於ても本件の如きストはその正当性を欠くものといわなければならない。
三、本件争議行為は争議権の行使方法において権利濫用があり正当な争議行為とはいいがたい。
(1) 本件争議行為には補充の原則に反する点において権利濫用がある。
本件争議行為の直接の原因は三月十五日及び同十六日になされた被告会社対原告連合会間の賃金交渉における労使の主張の不一致にあるが、この交渉はさきにも述べた通り全鉱対経連間に妥結を見た「賃金に関する仮協定書」の内容において、会社の経営実情を勘案しつつ具体化するためのものであつた。当時被告会社における従業員の賃金は実収平均八千六百九十四円であつて同業他社に比して決して遜色のあるものではなく否むしろ最も水準の高い状況にあつたが会社としては従業員の要望にこたえるため前記全鉱対経連間の中央協定における仮協定書に示された増収標準額につき最高平均額の増収を保証することと組合が最も要望する基準賃金増額の措置をとることを回答したのである。全鉱経連間の協定によればこの基準賃金増額の措置に関する協議は六月末迄に双方検討することになつていたのであるが会社としては各社に先んじ四月以降について基準賃金増額の措置を断行することとしたのである。然るに原告連合会としては被告会社のこの提案を顧みることなく、交渉開始以来僅か二回の交渉を重ねたのみで、(しかもその第一回は全鉱対経連間の交渉妥結の日即日になした打合会程度のものであり十六日は十四時より十八時四十五分までであつた。)直ちに争議行為を通告してきたのである。仮に本件交渉があるいはたとえ終局的には争議行為に入らざるを得ないものであつたとしても、労使間にはなお充分に交渉を重ね協議する余地のあつたことは三月十七日附を以て告知した副社長名の文書「全社員に告ぐ」(乙第七号証)によつても充分察知できることであつて、組合側が僅々三月十五日、十六日の二日間の交渉のみを以て交渉決裂を宣し、直ちに争議行為に入つたことは、必要止むを得ない処置であつたとは認めがたい。およそ自力救済としての実力行使が合法視されるためには「真に止むを得ざるに出た行為」であることを要することは刑法上の正当防衞、緊急避難(刑法第三十六条同第三十七条)たると民法上の正当防衞(民法第七百二十条)たるとを問わず法律の定めるところであり、その限度を超えた行為は権利の濫用として法の保護に値しないものであることはいうまでもない。この法理は労働法の分野においても当然妥当するものであることはすでに内外多数労働法学説の一致した見解である。かような意味においてまず本件争議行為は権利濫用に基くものであり法の保護に値しないものといわなければならない。
(2) 次に本件争議行為は法益権衡の原則に反する点において権利濫用であり違法である。
柵原労組は三月二十日積込作業現場の部分スト、翌二十一日積込作業及び「のみ」焼現場の部分ストを実施した。これらの部分スト、就中「のみ」焼現場のストは直ちに関連作業である「のみ」運搬、「さく」岩、坑内運搬、火藥発破、昇降機運転等の作業を休止せしめることによつて鉱石の採掘、運搬を文字通り停噸せしめるのである。これが会社の経営に与える損害は約一、六二一千円に達しまことに甚大である。然るに労働組合側の失う利益は僅かに二十名の「のみ」焼現場員の賃金五、四七五円にすぎない。このように労使が失う利益の著しき不均衡は明かに法益権衡の原則に違反するものでありそれ自体権利の濫用である。
勿論このことは必ずしも争議によつて労使各々がそれぞれ失うところのもの、物質的損失が算術的に形式的に均衡を保たれねばならないと主張するものではないが、労働法の理念として労使間の法律関係もまた対等の原則に立脚し、信義誠実の観念に戻るものであつてはならないことは周知の通りであり、争議行為においても公正の理念を逸脱することが許さるべきものでないことは一般の通念となつている。即ちここにいわゆる対等の原則には自ら社会通念上妥当視され、許容さるべき限界がなければならない。然るに本件争議行為によつて会社の失う利益と「のみ」焼職場の従業員の失う賃金額とは比較すべくもないのである。自己の犠牲を可及的少くし、故意に相手方に必要限度を超えた過大の損失を与えんとする本件「のみ」焼現場の部分ストの如きは明かに対等の原則を破るものであり、権利の濫用であるといわざるを得ない。
四、本件争議行為は柵原労組としては労働協約に違反して行われたものであり、原告のスト決定は正当権限に基くことなく実施されたものであり正当性を欠く。
(1) 柵原労組が本件争議行為を実施するに当つて、被告会社側に対し「さきに連合会より会社側に通告したストライキ実施に関し当組合としては三月十七日第十六回臨時大会の決議に基き三月十九日午前五時より無期限ストに突入する。」旨を三月十八日に通告したことは原告対被告間に昭和二十四年九月七日締結せられた労働協約(有効期間一ケ年)第二十六条に違反するものであり、従つて本件争議行為は正当な争議行為であるということはできない。
右労働協約第二十六条は「会社若しくは連合会又はその加盟組合が争議行為を行う場合は交渉決裂の後であつて少くともその四十八時間前に相手方に対して予告をしなければならない」と規定している。従つて柵原労組は原告の加盟組合として当然この規定の拘束をうけることは明かであり、このことは同協約第二条に「(1)会社は連合会加盟組合員の人格を尊重しその労働条件並びに生活条件の積極的維持改善につとめ、連合会及び加盟組合員はその自覚と責任とにおいて労働秩序の維持並びに作業能率の増進につとめると共に、会社及び連合会はこの協約を尊重し誠意をもつて実行することを確約する。(2)前項の精神に基づき加盟組合と会社とは直接にこの協約上の義務を負う。」と定められたことからも当然うかがわれることである。ただ右第二十六条において「加盟組合」に対しても特に予告義務を課した所以のものはあるいは加盟組合独自の固有目的を達成する場合の争議行為を予想し、これについて規定したものであるとの一応の解釈も成り立ちえないことはないが他方において同協約第一条が「(1)会社は連合会が事業所の社員をもつて組織される左記労働組合(以下加盟組合という)の連合体であつて唯一の団体交渉当事者であることを認め一切の基本的事項については連合会とのみこれを行う。一、同和鉱業本社社員組合(大阪、仙台両支部を含む。)二、小坂鉱山労働組合三、花岡鉱山労働組合四、柵原鉱業所労働組合(2)前項の規定に拘らず会社及び連合会は連合加盟組合がその事業所に対して団体交渉権を有することを認める。」と規定している。即ち連合会は唯一の団体交渉当事者であることは勿論であるが、同時に会社及び連合会は加盟組合がその事業所に対して団体交渉権があることを認める旨を明記しており、しかも被告会社対原告連合会の団体交渉事項と被告会社対加盟組合間の団体交渉事項を協約上何等区分して定めていないのである。
然らば会社対連合会間の中央交渉事項が決裂して争議行為に入る場合には連合会は各単位組合を以て組織されている連合会であるからその構成分子たる各単位組合に向つて争議行為に入るべき旨の指令は為し得るのであるが直接に全労務者に対して争議行為の実施を指令し得るものではない。指令を受けた加盟組合が具体的に争議行為に入る場合にはその加盟組合が労働協約第二十六条の拘束を受けること勿論である。蓋し労働協約第二十六条には各加盟組合が四十八時間前の予告を必要とすることを定めて居り、その趣旨はこれが一般的な冷却期間であるという意味の他に鉱山については特に争議前に争議に関与せしめない保安要員を協定することが必要であるのでその協議の準備時間を設けたものであることからも明白なことなのである。従つて又原告加盟組合全体にわたり実施するストの場合においても原告の予告とは別個に加盟組合自体の予告を必要とする趣旨であることはいうまでもない。
なおこのことは加盟組合たる柵原労組規約(昭和二十五年一月二十日制定)には第二十七条に「本組合の同盟罷業は組合員の直接無記名投票による過半数の決定を得なければならない。」また同規約第二十三条に「左の事項は必ず大会若しくは地区支部大会に附議しなければならない。一、争議行為の決定(二乃至七省略)」との規定があり、尚その他の加盟組合たる本社社員組合規約第二十四条三号、第二十七条、小坂鉱山労働組合規約第九条五号、花岡鉱山労働組合規約第十条八号、第十二条二項にもそれぞれ全く同一の規定があることからして原告連合会は争議行為を決定しても、その構成分子たる各加盟組合に指令を為し得るだけであつて、各加盟組合が争議行為を実行に移す場合にはその単位組合の規約に基いた手続を踏まなければならぬこと勿論なのである。
なお実際問題として従来の慣行上も柵原労組が全鉱若しくは連合会からの中央指令に基く争議行為をなす際にも組合自体として争議行為に入るべきか否かを組合大会において決定するのが慣例となつていたのであり、三月十八日の被告会社宛通告書の中にも「三月十七日第十六回臨時大会の決議に基き」と明記してあることは組合自身が連合会の指令に盲従することなく独自の見解において本件争議行為に入るべきか否かを決定したものであることを裏書きするものであるというべきである。
(2) 次に被告会社の労働組合において原告連合会のなす争議行為については前段述べたように柵原労組の規約にも連合会の規約にも何等の定めがない。従来の慣例によれば各加盟組合から選出せられた連合会役員は特定の要求事項についてその都度加盟組合の大会の決定にしたがつて争議行為に関する決定権の委任を受けていたものである。勿論一般に争議権は実質的には団体交渉権をしてより効果的ならしめるため労組法によつて労働組合に保障せられたものではあるが、具体的の場合に連合会が争議権をもつか否かということについては連合会の特性にかんがみ連合会規約自体あるいは組合規約において何等かの定めがなされない限り当然にこれを持つものであるか否かということは疑いなきをえない。
本件の場合柵原労組は三月十七日の大会において「ストを含む指令権を中央闘争委員会(連合会)に委任する」の件につき無記名投票で賛否を問うている。然るに原告連合会が被告会社に対して「三月十九日零時より部分ストを含む無期限ストに入る。」旨を通告して来たのは柵原労組が右の大会を開いた三月十七日の前日である三月十六日であつた。然らば少くとも柵原労組に関する限りは連合会がかかる決定をなしたことは無権限に基く行為ということができるのであつて連合会の決定は有効に成立していないというべきである。それは少くとも正当性を欠くといわねばならない。
従つて柵原労組より前記の委任を受けた原告連合会が柵原労組に対してスト指令を為すにはその委任を受けた十七日以後に於て四十八時間前の予告を以つて柵原に於て争議行為を行う旨の通告を会社にしなければならぬことも当然の結論となるのである。然るに斯の如き通告は全くない。
第五、休業と部分的ロツクアウト、その正当性について、
本件「のみ」焼現場の部分ストに伴い会社のなした休業は部分的ロツクアウトであり、しかも使用者としてなした正当な争議行為である。
それゆえ相手方のなす集団行為たる争議行為に対し会社のなしたこの休業を以て個人法の法理に基き使用者の責に帰すべきものと判断することは適当でない。およそ「作業所閉鎖」が使用者に与えられた争議手段であることは労働関係調整法第七条に明記するところである。作業所閉鎖は如何なる場合に正当なものとなるかについては法文上も明かでなく、学説または区々に岐れ帰一するところがない。
しかしながら労働争議の状態に立ち至つた場合、労働組合が具体的争議行為に入るおそれが顕著なときにはたとえ現実に争議行為をなしていなくとも使用者はこれに対抗する手段として作業所閉鎖を実施することができるものと解すべきものであろう。若しこれすらもできないとするならば、使用者は手を拱いて労働者側のなす争議行為を傍観せざるを得なくなり、実際問題としても具体的に彼が争議行為に入つてしまつてから後に実施された作業所閉鎖には何ら積極的効果を期待することができない結果となる。それでは折角労調法が使用者に対して与えた唯一の争議手段である作業所閉鎖は無意味に帰するというもあえて過言でないであろう。またそのように解することは争議状態における当事者対等の原則にも違反することとなり衡平の観念からいつても当を得たものとはいい難い。
すなわち使用者は労働者が具体的に争議行為に入るおそれが発生した場合には進んで作業所閉鎖をなし、自己の主張の貫徹を期することができるものと解せざるをえない。
本件の場合、労働組合のなした積込作業の部分スト及び「のみ」焼現場の部分ストは時間の経過にしたがい順次鉱山の作業過程に停滞を来さしめやがては全鉱山の機能を痲痺させる危険が充分予想されたのであつて、この段階において会社が一時考えたように全山に対する作業所閉鎖を実施しようとしたことは、鉱山施設の保持、あるいは使用者の施設所有権に基く当然の措置であつて何等責むべき点はなく正当であつたといいうる。
況んや現実になされた部分的ロツクアウトなるものは組合のなした「のみ」焼職場の放棄に伴い事実上作業の運行が不可能となる直接の関連作業の範囲に止めたものであつて、会社としては緊急やむを得ない必要に基いてなしたものであるから、正当な争議手段の行使であることは論を俟たない。
柵原労組は三月二十一日の団体交渉の席上会社に対し「直接関連部門の作業ができないとしても他の作業に就かしめることもできるから会社の責に帰すべき休業である」かの如き意思を表明しているが、それ自体労働組合のなす争議行為の不公正さを表明するもの以外の何物でもなく、争議状態における法律関係と平常時におけるそれとを混同した論旨であるといわざるをえない。
すでに本件部分的ロツクアウトが正当なものである限り、その間の賃金については会社はこれの支払義務を負うものでないことはいうまでもないことである。世上往々作業所閉鎖を以て債権者遅滞であるとなし相手方の賃金請求権を肯定するかの如き論をなすものがあるが、作業所閉鎖は使用者の争議行為であり、しかもそれが正当になされる限りそれは団体法上正当行為となるのであつて、仮に民法上は本来債権者遅滞となるべき行為であつても、団体法現象に対しては団体法が優先適用さるべきは当然のことであるから、個人法上の違法、不当は団体法上の正当性によつてそれが阻却せられ個人法的にも正当行為となるものであると考えることもできるであろう。
(丙) 原告訴訟代理人は被告の答弁に対して次のように述べた。
被告の主張する第三の争議経過に関する事実のうち全鉱の構成員が各企業毎の労働組合であること、三月十七日柵原労組の大会においてスト指令権を原告連合会中央闘争委員会に委任したこと及び被告会社の警告、申入、通告等に示された評価ないしは意見に属する部分を除きその他の事実はこれを認める(全鉱の構成員は各単位労働組合であり、三月十七日の柵原労組の決定は後に述べるように同年三月十日既になされた同趣旨の決議を再確認したものにすぎず、被告会社の通告警告又は申入れた事項が被告主張の通りであることはこれを認める)。同第四の一の事実のうち「のみ」焼職場、「さく」岩員、「のみ」運搬員、火藥運搬員、直接指導職、内雑員、運搬員、坑内運転員の主たる職務内容が被告の主張通りであること、「のみ」焼と「さく」岩作業との工程上の基本的関連、「のみ」の回転時間、経路等が被告主張の通りであること、その四のうち原告及び被告会社間に労働協約が存し被告主張通りの定めがあること、柵原労組及び原告加盟組合の組合規約に被告主張のような定めがあること、はいずれもこれを認めるが、その他の事実はこれを争う。
第一、被告会社の柵原鉱業所が昭和二十五年三月二十二日別紙目録記載の者に対してなした休業が部分的ロツクアウトであるとの被告の抗弁を否認する。柵原鉱業所は三月二十一日十五時職制を通じて別紙目録記載の者百九十四名を含む二百六名に対して休業を命じたのであるが(翌二十二日にそのうち右百九十四名を除く十二名につき公傷の故をもつて休業を取消した)、柵原労組が二十一日休業の必要がないことを抗議した際、被告側は二十一日の「のみ」焼職場ストの結果それと直接関連する職種の仕事がなくなり、その一部休業は右部分ストによる自然発生的措置であつてストに対する報復手段ではなく鉱業所限りで処置したものであると回答した。
しかもその後柵原労組との交渉において、柵原鉱業所も被告本社も右休業が自然発生的作業であつて対抗行為ではない旨再々回答し、同年四月十一日になつて初めて三月二十一日の「のみ」焼ストは部分ストではなく一種の業務妨害であるから関連作業を休業しロツクアウトのやむなきに至つたものであるから会社に責任はないと主張するに至つた。しかし被告の右措置は柵原鉱業所としてのみ取られたこと、ロツクアウトであるならば原告対被告間の労働協約第二十六条によつて争議行為の四十八時間前に予告しなければならないのに、労働組合に対して通告せず職制を通じて個々人に対して通告された事実からみても原告組合又は柵原労組に対する争議行為ということはできない。従つて右休業を目してロツクアウトであるとなし休業による責任を免れ得ないことは勿論、後に述べるように坑内作業用「のみ」(スペヤー)の残量は二十二日の作業を遂行するのに十分であり、且つ当日既に「のみ」焼作業を実施されていて作業上の不安もないのであるから休業させる必要は少しもなく、右休業が自然発生的現象であるとか就業不可能による等の事情は全く事実に反する。
第二、仮りに被告の本件休業が使用者の争議手段としての部分的ロツクアウトであるとしても、本来ロツクアウトはその本質上労働組合のスト又はサボに対するやむを得ない防衛措置としてのみ許されるものと解すべきところ、本件休業には被告の主張するようなやむを得ない事情はない。
一、被告は右部分的ロツクアウトは「のみ」焼ストにより生ずる全山痲痺の事態を避けるための自然発生的現象であると主張し、第一に二十二日坑内に存したスペヤーの数量を稀少評価ないしは無視し、第二にいわゆる関連職種の職務内容を極限することによつてこれを根拠づけようとしている。
(一) しかし三月二十二日坑内における焼刃「のみ」(スペヤー)の残数は太「のみ」(太棒)一番一七六本、二番一五六本、三番一一四本、細「のみ」(細棒)一番一三九本、二番一二九本、三番六五本、四番五五本、ストツパ(中棒)各尺「のみ」一〇〇ないし一五〇本であり普通作業で必要な太「のみ」数を考えて見ると太「のみ」一番一〇本、二番八本、三番六本で「さく」岩機一台稼動が可能であるからこれにより十八台稼動できるものであり、細「のみ」の一台稼動に必要数は細「のみ」一番八本、二番八本、三番五本、四番四本であるからこれによつて「さく」岩機十五台稼動が可能であり、ストツパは十四台稼動可能であるから合計四十七台稼動が可能であるが堀場の条件、使用可能「のみ」の坑内配置等を勘案しても普通作業台数三十乃至三十五台の確保は確実である。
そうだとすれば「さく」岩作業は支障なく行われ得たものであるから、他の職種についても当然に作業はあつたものである。この点につき被告は坑内にスペヤーが存在しても数十粁の坑内から各切羽に「のみ」を集収してくることは困難であると主張するが、各坑道毎に近くの切羽から運搬するのであるから十分ないし二十分で運搬が可能であり最も遠い場合を推定しても一粁以内にすぎないから作業に支障はなく、又もし二十二日に作業させなかつたとすれば二十五日の作業は支障を来たしたのであろうとの被告の主張に対しては、二十二日スペヤー「のみ」を使用し「さく」岩を行い二十五日(二十三、四日は全面ストにつき通常なら二十三日に当る)は前夜中に焼直し「のみ」が各坑道「のみ」置場に配置されてあるから悪条件の切羽にも朝十時頃には完全に運搬され作業に支障はない。この場合二十三日の「のみ」焼作業は二十一日と二十二日の磨耗「のみ」を処理する必要を生ずるが一日八百本の焼直しを行えば一日二百本の余裕「のみ」の処理ができるから三日間で平常に復することは明らかである。その後における各切羽への「のみ」の配置については「さく」岩作業の行われる切羽毎に運搬された「のみ」が若干づつスペヤーとして残り自然のうちに旧に復するわけである。このように「のみ」焼ストによつて翌日の「さく」岩作業が不可能となり「さく」岩作業の休業が自然発生的であるという被告の主張は全く事実に反する。
従つて「のみ」運搬員その他被告の主張する関連職種を休業させる必要のないことは明らかである。例えば「のみ」運搬員も「さく」岩作業を行えば「のみ」の稼動を必要とするため休業の必要はない、又運搬員についてみても、貯鉱がないとすれば「さく」岩員を休業せしめた会社の責に帰すべきもので「のみ」焼休業の結果必然に作業を失つたものでもなく、殊に「さく」岩機関係は二十一日迄平常通り作業を行つていたものでストを廃止した三月二十五日の当該職種の作業が三月二十二日と同一の条件の下で平常作業に等しい車数六番坑上部三百六十五車の実積をあげたことによつても作業の存在したことを実証するものである。又貯鉱量の問題としても三月二十二日は積込作業は半減されて居たものではあるが、之が七百トンであるから正常に運搬した場合貯鉱量は三千九百トンで貯鉱能力をオーバーすることはない。
(二) 更に休業させられた関連職種の作業内容をみると、その主たる職務は前述のように被告主張の通りであるが、なおその外に、「さく」岩作業は日々の作業条件又は作業員の健康状態によつて若干名の者は故障機械の修理、整備、附属品の補修その他次の作業の段取として機械組立、機械運搬、足場つけ等々の作業(俗にB職という)を、「のみ」運搬員は作業条件により故障「さく」岩機の運搬、「さく」岩用水の水汲、「さく」岩作業段取、鉄管継(圧搾空気、水のパイプ)の補助等の作業を、火薬運搬員は「さく」岩作業により発破に要する火薬を係員より交付された伝票によつて火薬の庫出作業をなし、内雑員の仕事のなかには「のみ」運搬、火薬運搬、鉄管継の作業も包含されその他には坑内術生堅坑監視、鉱車修理、数取、道具番等諸雑務にも従事するのであり、運搬員は本来の作業の外軌条の転撤又は下水路の清掃等の雑役があり、各鉱体、番坑別に分かれた受持地域内において担当係員の命により日々就業し、しかも日によつて盛込車夫、漏斗拔、坑道清掃等多種の業務内容の中いずれにつくかは明白でない。このように各職種の作業内容の点からみて、坑内スペヤーの存在を無視しても、「さく」岩員、「のみ」運搬員及び内雑員は「のみ」焼員のストによつても「さく」岩及び「のみ」の運搬その補助以外になお本来の作業を有し、又火藥運搬員直接指導職については「さく」岩がなされなくとも坑内において「さく」岩に関係なく常時火薬を使用すること(大割発破の場合)があるから火薬運搬員の作業は存在し、且つかかる火薬を管理する者として法令上の火薬係員(直接指導職)の就労を要するものである。然るに柵原鉱山において右係員はわずかに一名であり、その一名の職務が自然発生的に消滅するが如きことはあり得ない。運搬員についても鉱石の運搬の外に職務を有することはもとより、更に、当日上部鉱体には支柱採掘の切羽が多数あり「さく」岩作業に関係なく運搬員の作業があることはもとより、かつてなされた如く他の貯鉱堀場に増員配置もなされうるのであるからこれまた作業がないということは許されない。
しからば坑内運転員についても同様の存在を否定することはできない。
二、被告は柵原労組の争議行為が積極的な業務妨害行為であると主張するが、原告は原告組合傘下の全労働者の生存権の擁護をこそ意図すれ、業務妨害の意図は毛頭ないのであつて却つて被告の反省による速な目的達成により被告の損害の最少ならんことを欲したもので、争議の実施は公明に行われ原告としては権利の擁護のやむなき措置にすぎなかつたもので、「サンジカリズムの思想に立脚」したものでもない、むしろ原告ができる限り双方にとつて致命的全面ストを避けんが為にとつた争議行為に外ならないもので現実に被告が損害を受けたとしても、原告の争議が不当となるものではない。
柵原労組が「のみ」焼作業及び積込作業につき部分ストを実施したのは、原告の争議目的を貫徹する強固な決意を示すと共に特に被告会社に与える損害はこれを極力少なからしめるよう慎重な考慮の後これを行つたものである。若し柵原労組が被告に対し現実甚大な損害を与えることをも企図したのならば寧ろ電車運転或は運搬作業等のストを実施するにしくはない。凡そ民主的労働組合の範として原告組合は組合員及びその扶養家族をささえるための労働力と資本との結合の場である職場を破壊し会社に甚大な損害を生ぜしめ自らも亦苦境に陥つてまで争議権を行使する意図はない。さればこそ会社に与える現実の損害をできる限り避け乍らなお組合の圧力を会社に対し発揮しうる方法を求めた深き配慮に出でたものである。
三、被告は柵原労組の争議行為は争議権の濫用であると主張するが本件争議は何等権利の濫用とみるべきものはない。
(1) 被告は原告の賃上交渉に対し十分に之に応じ得べき収益をあげながら、三月十六日の団体交渉において自ら譲り難きを譲つた文字通りの最後案であるといつて原告の正当な賃上要求と三月十五、十六日にわたり誠意をひれきした団体交渉に対して要求を拒否し敢て組合にストをなさしめるに至つたもので、原告が部分ストによる警告の後三月二十三、二十四日の全面ストを行うに至つて三月二十五日の妥結を見るに至つた事情からみても、少くも文字通りの最後案ではなく原告の賃上要求を受諾しなかつたこと自体不当であり、このような要求貫徹を目的とし被告の右の態度に対して取つた争議行為は何等権利の濫用をもつて目すべきではない。
(2) 被告は法益権衡の原則に反する旨主張するが、原告は原告組合傘下の全労働者の生存権のため争つているので、この権利擁護のための部分ストが被告主張の様な法益権衡の原則に反するものではない。
四、被告は柵原労組の争議行為は原告対被告間の労働協約第二十六条に違反し又原告のスト決定に正当な権限なくなされたものであると主張するが、何等そのような違法はない。
そもそも本件争議行為は全鉱対経連間の協定を基準とする原告対被告間の賃上交渉によるものであり、柵原労組は既に昭和二十五年三月十日第十五回臨時大会において右要求貫徹のためのスト指令権を原告に移譲していたのであるが、原告はこれに基き三月十六日無期限ストに入る旨を決定し且つ柵原労組外加盟組合にスト指令をなすと共に被告に対しては同月十九日午前零時より部分ストを含み無期限ストを行うべき旨四十八時間前の通告をしたので、原告のスト指令は直ちに柵原労組及び加盟組合並びにその各組合員を拘束すると共に原告の被告に対する右通告は加盟組合全体のスト通告にもなるのであるからその外に柵原労組自体の通告は不必要である。
なお三月十七日の柵原労組の決議は三月十日原告に対するスト指令権一任の件を柵原労組としての団結と団体行動を更に鞏固にするため再確認の方法をとつたものであり、スト指令権一任は既に三月十日においてなされている。この厳たる事実は字句の如何により左右されるものではない。事理上からしても一度び一任し乍らその撤回もなさずして改めて一任すべき筈がない。また三月十日一任のスト指令権は全鉱経連間の紛争が妥結し原被告間の交渉に移つた際の事態に備えて原告に対しこれを一任したものであり、三月十六日のスト中止通告は全鉱経連間の闘争についてのストに関するものであるから、右スト中止通告が前記スト指令権一任の効果に消長を与えるべき謂われはない。
又仮りに柵原労組の三月十七日の決議が再確認の趣旨でないにしても、原告のスト指令は右決議によつて追認されたものというべく原告の行為は無権限というべきではない。又柵原労組が三月十八日被告側柵原鉱業所に対して三月十九日午前五時より無期限ストに入る旨を通告したのは既になされていた原告の被告に対するスト通告に含まれていることを注意的にしたものにすぎない。
すなわち、三月十九日以降のストはすべて原告の指令した争議行為であり各加盟組合は原告のスト指令にもとずきそれぞれ具体的にストを展開したものである。凡そ労働組合は、原告の如き連合会であると、はたまた単一の組合であるとに拘わらず、団体行為の権利を保障されることは当然である。(原告がスト開始の意思決定をなした以上、各加盟組合は本来更に意思決定を為すを要さず指令に基き直ちにストに入ることを得べきは、原告連合会の団結及び団体行為を認めるかぎり之亦当然と云わなければならない。)本件においては各加盟組合は予めその規約に基きベースアツプに関する賃上交渉権並にスト指令権を原告に移譲したものであり、原告は全組合員のための賃金要求貫徹のためストを決定し、これを各加盟組合に指令したものであるから、右原告のスト実施の決定は直ちに原告傘下組合員全員を拘束するものである。若し被告主張の如く柵原労組のストが、加盟組合としてのストであるとするならば、柵原労組のみが被告との間に如何なる要求を持ち如何なる交渉をなしたか被告はその説明をしなければならない。その非なることは本件が同和鉱業対全同和労組の争議であり、原告のスト指令により加盟組合全体が直ちにストに入つた実態を観れば瞭然たるところである。
かく、本件ストが原告連合会として加盟組合全体のストである以上、協約第二十六条による予告は原告のなすべきものであり、また原告の予告をもつて充分である。若し被告主張の如く原告の予告の外更に柵原労組よりの予告を要するとすれば、柵原労組は被告に対し柵原労組として賃上要求をなしたことがなく、また、柵原労組として賃上交渉をなしたことはないのであるから、協約第二十六条に所謂「争議行為を行う場合は交渉決裂の後であつて少くともその四十八時間前に(云々)予告」するにつき、何時をもつて交渉決裂とするか自主的な判断を為すことを得ない。この点から考えても原告連合会の交渉事項につき原告加盟組合全体に亘り実施するストについては原告の予告をもつて足り、柵原等各加盟組合の通告を附加することを要しないことは明らかである。而して原告のスト予告は四十八時間前に被告に対してなされたものであるからこの点につき何等協約違反の生ずべき筈がない。
第三、更に被告の本件休業はロツクアウトであるとしても次の理由により正当性を欠く争議行為である。
一、全鉱対経連間の労働協約第十条「経連構成員は鉱山、工場等の閉鎖、譲渡、休業等組合員の生活に重大な影響を与える事項については全鉱構成員の意見を充分尊重して予め充分協議する」との規定はロツクアウトの事前協議を定め、原被告間の労働協約第二十六条はこれを前提として双方争議行為の事前通告を規定しておるが、被告は何らの事前通告もなさず、本件休業を命じたのであるから明かに協約に反するものである。右第二十六条が四十八時間の予告期間を定めたのは労資対等の原則に立脚するものであつて双方は争議行為に対する事前措置を可能ならしめ被害を極力少なからしめようとするものであり一方が既に争議行為をしていると否とを問わずひとしく適用せらるべきものであつてロツクアウトが対抗行為であるとの理由から直ちに予告期間の遵守義務を免除せられるものではない。
二、被告のロツクアウトは不当に賃上げ要求を抑圧せんとしたもので目的に於て不当である。
本件賃上げ要求は被告主張の様に昭和二十四年八月の全鉱より経連に対する賃金要求に端を発するものであり、それによれば基準賃金は(1)坑外鉱員平均税込月額(二十五工)八千八百円(2)坑内鉱員平均税込月額(二十二工)一万四千九百円としその算出方法は(1)全鉱、経連共同の全国鉱山生計調査九月分実態生計費税拔き支出金額七千七百十八円四十七銭、(2)扶養家族数二人、本人平均年令三十二才を基とし、(3)昭和二十三年十月から昭和二十四年七月迄の十ケ月をC・P・Iによつてスライドさせたものを基準とするもので、畢竟原告の要求は鉱山労働者として最低限度の「健康にして文化的な生活」を営むに足る賃金の要求にあつたもので、被告会社の当時の資産並に経営状態は資本二億円、純財産二億九千百七十万九千二百四十四円六十八銭、利益金合計八億百九万二千四百四十四円六十八銭、株主配当金一千七十二万円(年一割五分)((自昭和二十四年十一月一日至昭和二十五年三月三十一日第二十二期決算))資産内容並に収益状態共に良好であつて充分原告の要求に応じ得べきに拘らず原告傘下労働者の生存権を抑圧することによつて尚多額の収益をあげんことを企図したもので、これは原告の要求を入れた次の営業年度(第二十三期)に於ても純財産十五億百九万六千九百十四円九十八銭、利益合計一億四千四百三十万九百五十三円六十二銭、株主配当金(年二割)二千万円を計上し得たことによつても明かであつて、スト発生自体が被告側の無理解に帰するもので被告の争議行為を不当ならしめるものである。
三、柵原労組のスト実施はもとより会社に於て無反省なるときは全面ストに移行すべきはストの性質上当然であるが、部分ストによつては何等の会社側の経営基盤を失わせる虞れあるものではなかつた、すなわち三月十九日は公休日であつて、全部ストの如き被害を与えたものではなく三月二十日は鉱石積込作業を一日だけ放棄し三月二十一日は送鉱九百五トン三月二十二日は送鉱八百二十三トンであつて当時の予定送鉱量一日当り一千三十三トン三百キロに対して一日当り百六十九トン五百キロの減送のみしかなく当時の鉱石価額トン当り二千二百十四円で一日当り約三十七万五千円程度の減収にすぎず部分的ストが未だ柵原鉱業所に対して赤字を計上せしめる限界にはなく、三月二十一日には「のみ」焼員全員の職場放棄は一日のみで三月二十二日は就労して居り、当日休業を命ぜられたものは何等作業不能の状態にあつたのではなくもとよりその就労は柵原鉱業所にとつて利益なるものであつて此の場合における会社側の就労拒否は争議行為とすれば明かに打撃的な加害を目的とする一種の権利濫用の行為で正当な限界を逸脱したものであり違法のものである。而してこのことは今次争議に際して原告傘下の小坂、花岡両労組においてもまた部分スト及び全面ストがなされたにも拘らず、柵原においてのみロツクアウトがなされた一事をもつてみても明らかである。
四、ロツクアウトは通常組合員全員に対してなさるべきであるに拘らず一部従業員に対してだけ行うのはロツクアウトとして不当であるのみならず差別待遇として不当労働行為ともなるものであつて保護に値しない。
第四、仮りに被告主張のように本件休業が正当な争議行為であるとしてもこれにより賃金支払義務を免除せられる理由はない。すなわち労働者の争議行為については労働組合法第一条第二項と第八条の免責規定があるが使用者の争議行為についてはこの様な規定もなく、又憲法第二十八条は団体行動権を保障しているが使用者の争議行為を保障する規定はないのであつて労働者の争議権と同視し得べきものではなく、使用者の争議行為は単なる放任行為に過ぎない。かく解することが使用者の経済的優越の前に労働者を対等ならしめるものである。使用者の正当な争議行為は労使対等の立場の促進宣言及び労働組合法第八条に対する公平解釈より使用者も保護せらるべしとの見解は争議の実情に徴しても労働者に保障された争議権の行使を制限すべき契機を含むもので是認し得ない。
(丁) 被告代理人は原告の右主張に対して次のように述べた。
一、被告が本件ロツクアウトを実施するに先だち柵原労組に対してそれが自然発生的措置である旨回答したことは既に認めた通りであるが、かかる用語は争議中の言葉を過激にしないためであり被告と柵原労組間の当時の文書の応酬によつても関連職種の休業が相手方の争議行為に対抗してとられた措置であり、いわゆる部分的ロツクアウトの意思に基くものであることは疑の余地はない。
二、被告の休業を命じた関連職種の作業内容が原告の主張通りであることはこれを認めるがそれはいずれも主要作業が行われてはじめて意義をもつ補助的作業であり又ロツクアウトである以上他の作業に従事させる必要はない。又三月二十二日のロツクアウト当日「のみ」焼場で六二九本の「のみ」が焼直しされたがこれは当夜材料運搬員によつて堅坑を通つて坑道「のみ」置場まで運ばれ二十五日の午前九時から「のみ」運搬員によつて「さく」岩切羽へ配分された。従つて二十五日の「さく」岩作業はこれらの「のみ」が切羽へ到着するまでは不足ながらも残存したスペヤーを使用し到着後は全面的にこれを使用して平常通りの作業をすることができたのであるがこれは二十二日「さく」岩員その他の関連職種をロツクアウトしたことによつて「のみ」焼作業一日の空白を解消し「のみ」焼作業と「さく」岩作業と歩調を同一にしたからに他ならない。二十二日に若しロツクアウトをやらなかつたら二十一日は「のみ」焼員が休業しているから「さく」岩員は二十二日はスペヤーだけで仕事をしてその他は全然手待ちとなり翌日(二十三、二十四日は全面ストであるから二十五日の作業)は二十二日の焼直し「のみ」が到着するまではこれまた全然手待となるわけである。
三、原告の被告会社に対するスト通告に始まつた本件争議行為は原告が指令して一斉になしたストではなく原告加盟組合中の一組合たる柵原労組のストである。又原告対被告間の労働協約第二条第二項は原告加盟組合全体にわたり実施するストの場合においても原告の予告とは別個に加盟組合自体の予告を必要とする趣旨なることは疑なく、いずれにせよ柵原労組の協約違反は免れない。
三月十七日の柵原労組の決議中スト指令権を原告中央闘争委員会に委任する件はその議案をみても三月十日の決議を再確認したものではない。いわんや三月十日のスト指令一任の件は三月十五日争議妥結し同十六日のスト中止通告によつて失効した以上再確認ということはあり得ない。又仮りに原告のスト指令権が三月十七日の柵原労組の決議によつて確認されたとしても十七日から四十八時間の予告期間が必要でありそのような予告がない以上右労働協約第二十六条違反であることに変りはない。なお同条に「交渉決裂の後」というのは、原告及び被告間、又は原告加盟組合及び被告間の交渉決裂のいずれの場合でもよいという趣旨に過ぎない。
四、被告が本件ロツクアウトをなすに先だち四十八時間前の予告をしなかつたからといつて右労働協約第二十六条に違反するものではない。いつたい争議行為の予告義務なるものは、相手方にこれに対する防衞措置を講ぜしめるための期間を与えることを目的とするものなのであり、従つて対抗的争議行為には当然その適用なきものである。換言すれば、この義務は、能働的、攻撃的な争議行為についてのみ認めらるべき性質のものであつて、被働的、防衞的な争議行為については認めらるべき性質のものではなく、又その必要もないのである。例えば使用者の攻撃的ロツクアウトに対し労組が何等かの対抗的争議行為に出る場合、又は使用者の協約違反行為に対し労組が防衞的争議行為に出るような場合には、労組は予告期間を守る必要がないし、又反対に労組が攻撃的争議行為に出てしまつた場合には、これに対する受身の対抗的ロツクアウトには使用者の予告義務は存在しないのである。
殊に、前段述べた通り、柵原労組がすでに労働協約第二十六条の予告義務を履行せず、これに違反した以上は、しかも関連職種を痲痺せしめるが如き争議行為を実施した以上、そのストに対する被告会社のロツクアウトは正に正当なる防衞的ロツクアウトであつて、予告期間を履践するの必要なきは言うまでもないことである。
(戍) (証拠省略)
三、理 由
(甲) 原告の主張によれば、原告が被告会社の従業員をもつて組織する柵原労組等の労働組合の連合体としての法人格ある労働組合であつて、本訴において、被告が右柵原労組の組合員である別紙目録記載のものに対し同目録記載の賃金その他の支払義務を有し、被告がこれにもとずいて右のものに右金員の給付をなすべきことを、求めているので、先ず、原告がかような請求をなす資格を有するかにつき検討しなければならない。
原告が被告会社の事業所毎の従業員をもつて組織する同和鉱業本社社員組合、小坂鉱山労働組合、花岡鉱山労働組合、柵原労組の連合体としての、法人格ある労働組合であり、被告会社との間に労働協約(昭和二十四年九月七日締結有効期間同年九月一日より一年間)を締結し、且つ団体交渉権を有し、別紙目録記載の者が被告会社柵原鉱業所の従業員であり且つ柵原労組の組合員であることは当事者間に争いがなく、成立につき争いのない乙第二十号証の一、乙第二十七号証によれば、原告は加盟組合の連繋を密にし各加盟組合員の生活権の確保と経済的社会的地位の向上を図ることを目的とすること、原告は被告に対する唯一の団体交渉当事者であるが、柵原労組その他の加盟組合はその事業所に対して団体交渉権を有すること、及び被告会社は一切の基本的事項については原告とのみ団体交渉を行うべき協約上の義務があることを認めることができる。而して別紙目録記載の者の被告会社に対する債権は、原告の主張によれば、原告の被告会社に対する賃上要求を貫徹するため原告の指令によつて開始せられた争議中に生起した被告会社柵原鉱業所の一部休業措置に基因する柵原労組員の賃金請求権であり、かかる債権は同人等に帰属するものであるが、原告もまたその賃金支払義務の存否確定について利害関係を有することはもちろん、労働組合のもつ固有の権限として更にその義務の履行について被告会社と団体交渉をなし、組合員が明らかに反対の意思を表示した場合を除き、その有する賃金債権につき、使用者たる被告会社に対し各組合員に直接賃金の支払わるべきことを請求する権能を有するものと解せられる(昭和二十五年(ネ)第四〇五号東京高等裁判所判決参照)ので、別紙目録記載のものが前記反対の意思を表示したことを認めるに足る証拠のない本件においては、原告は本件請求をなす資格を有するものと言わざるを得ない。
(乙) 次に本案請求の当否について判断する。
別紙目録記載のものが被告会社の柵原鉱業所の従業員であつて昭和二十五年三月二十二日就業せんとしたのに被告により拒否されて就業の出来なかつたこと、並びに原告の加盟している全鉱と被告の加盟している経連との間に昭和二十五年二月以来賃上の交渉が行われ同年三月十五日一人月額三百円ないし六百円の増収を各加盟組合、会社毎に折衝し決定すべき旨の協定(全鉱協定)が成立し、同月十六日原告はこれに基き被告に対し月額六千円ベースの賃上を要求したが被告はこれに応じないので原告は同日被告に対し同月十九日午前零時から部分ストを含む無期限ストを行う旨通告し同時に柵原労組外加盟組合に指令したこと、柵原労組は同月十八日に翌十九日午前五時から右同様の無期限ストに入る旨通告し、同月十九日「三月二十日一日間各番方の貨車積込作業を放棄する但し電話連絡のための必要な人員は認める」旨の部分ストの通告並びに「三月二十日午前五時より無期限スト決行中は時間外労働の一切を放棄する」旨を通告し、同月二十日には同労組は積込作業を担当する従業員にその職場を放棄させそのため正常な作業状態における鉱石の貨車積込量一日平均一、四二二噸が滞貨となり、又同日「三月二十一日には(一)「のみ」焼職場全員二十名が職場放棄をすること並びに(二)積込作業の一の方三百五十噸を積込終了後職場放棄すること及び二の方も同じくこれに準ずる」旨通告し、同月二十一日通告通り「のみ」焼職場全員二十名の職場放棄及び一の方並びに二の方各三百五十噸積込以後の積込作業の放棄を行つたこと被告会社柵原鉱業所は同月二十日原告の右部分スト通告に対応して関連職種の休業になるべきことを警告したが、通告通り「のみ」焼スト、積込部分ストが行われるに及び同月二十一日別紙目録記載の百九十四名に対し職制を通じて翌二十二日一日間の休業を命じ、同日柵原労組との団体交渉において同労組に対しその旨通告したこと(もつとも成立に争いのない甲第七、第八号証、乙第八号証の一、二を綜合すると被告会社は同月二十一日右百九十四名を含む二百六名に対し休業を命じ翌二十二日右百九十四名を除く十二名に対し公傷のため休業を取消したと認められるが、休業を命ぜられたものが右の百九十四名であることについては結局争いはない)、右百九十四名の者は同月二十二日柵原労組の指令により各所定の出勤時刻に坑口番割場に参集して番割を求めたが被告側柵原鉱業所は各所属係長を通じて同日は「のみ」焼作業の部分ストにより関連職種は仕事をすることができなくなつたから帰つて貰いたい旨通告し同人等の就業を拒否し、そのため同人等は就業できなかつたことはいずれも当事者間に争いはない。
第一、被告は右の一部休業が争議手段としての部分的ロツクアウトであると主張し原告はこれを争うので先ずこの点について判断する。
成立に争いのない甲第六、第七号証、乙第九号証の六及び八、乙第二十一号証の一、二証人新井友蔵の証言を綜合すると、被告側柵原鉱業所は同年三月二十一日午後二時三十分から三時三十分頃までの柵原労組との団体交渉の席上において、同労組から右休業が部分ストに対する報復であるかと問われたのに対し、右休業が部分ストの結果自然的現象として起つたものであつて報復ではない旨明言し又事業所自身として行つた旨回答し、更に同月二十二日文書をもつて同労組に対し右休業は組合の部分スト実施により生ずる自然発生的結果であつて会社にその責任なきことを回答したが、同年四月八日附被告本社の原告に対する回答では右部分ストは関連職種を含む一種の争議行為であつて被告の休業命令は対抗行為としてのロツクアウトである旨回答するに至つたことが認められ、以上の事実によると被告は右休業実施当時においては右休業が争議行為であるとの表現を避け、「のみ」焼職場の部分ストの結果関連職場の作業の実施が自動的に不可能となつたこと、換言すれば純然たる経営技術上の措置であつて柵原労組の争議行為に対抗して争議行為をする意思が全然ないことを表明したものとみえるのであるが、前掲各証拠に成立に争いのない乙第十七号証の十七、証人大阪数男の証言によつて成立を認めうる乙第十八号証の一、二、証人新井友蔵の証言によつて成立を認めうる乙第二十二号証、証人宇治野義憲の証言によつて成立を認めうる乙第二十三号証を綜合すると、柵原鉱業所は三月十八日の柵原労組との団体交渉においてその通告した部分ストを含む無期限ストの意味について説明を求め、それが一部ストを含む無期限ストであり、何時いかなる方法で実施するかは不明であり鉱業所側に対しては事前に通告せず一部ストの実施と同時に通告する旨の回答を得て無警告による部分ストに不安を感じ、被告本社に対し成行き上事業所閉鎖等の処置をとる必要ある旨を打電し、本社側は同月二十一日部分ストにより関連職作業が困難になるときはその部門のロツクアウトは止むを得ぬ旨回答したこと、柵原鉱業所は柵原労組のスト通告自体が予告期間に関する協約に違反するとの見解を持ち、同月二十日文書をもつて柵原労組に対しその通告した「のみ」焼の部分ストが正当な争議行為でないことを主張し部分ストにより職種によつては休業の止むなきことを警告したこと、又同月二十一日通告通り「のみ」焼ストが行われたので同日午後二時頃職場入口に別紙目録記載の百九十四名の休業命令を掲示し同日午後二時三十分頃より三時三十分頃までの柵原労組との団体交渉において前段認定のような応酬をかさね、スト中止の指令が来たら明日の就業拒否をどうするかとの質問に対し、被告側は、解決できれば出勤して貰う、連絡不充分のため出勤不能の者には賃金を保証する旨答え、又平常の仕事がなくても他の作業に就けられるとの要求に対して、平常ならばそれも考えられるが今はそれが出来ぬ旨答えたことが認められる。
右の事実によれば被告の右休業命令は、これを部分的ロツクアウトと称すべきものかどうかは別として、その措置が柵原労組の「のみ」焼ストを原因とする行為以外の何ものでもなく(前掲証拠によれば柵原鉱業所は休業の理由として争議手段又は報復なる用語が同労組を刺戟し紛糾が拡大することをおそれ純技術的な理由を表面に出したものとみるのが相当である)、又平常時と異る取扱をすべきものであることを主張し、且つその翌日行わるべき「のみ」焼ストが停止せられるならば関連作業の休業命令を解くことを明示した点において、争議行為を行つている労働組合を相手方とするものであり、柵原労組の翌日とるべき「のみ」焼ストを反省せしめると共にあわせて部分ストを含む無期限ストという争議戦術に対しても同労組の反省を促す意図に出たものであるということができる。
そうして、被告(柵原鉱業所)のなした右百九十四名に対する休業措置は、集団的出勤停止の措置と解すべきであるが、それが原告又は柵原労組の主張の撤回ということを直接明示してはいなくとも、少くともその主張貫徹の手段として取られた争議手段の一部を封ずることを目的とする点において、労働関係調整法第七条の争議行為たる性質を具有するものといわなければならない。
もつとも、本件の場合、柵原労組の右争議行為が柵原労組単独のものであるか、原告連合会及びその加盟単位組合全体の争議行為であるかは、争いの存するところであるが独立の組合である柵原労組が、現実に本件争議行為を行つている限り、少くとも使用者の争議行為としての性格を規定する上においては、被告が原告に右の対抗措置をとることを通告しなくても、柵原労組に対して通告すれば足りるものというべきである。
第二、次に被告は、前記休業は正当なる争議行為であつて受領遅滞の責を負わないものであると主張するのでこの点の判断をする。
一、一般に使用者が作業所閉鎖その他の争議行為によつて受領遅滞に陥つた場合受領遅滞或は履行不能を原因とする賃金請求を拒否し得るか否かの問題をいかに決するかによつて、本件請求の当否もおのずから決せられるものといわなければならない。
勤労者の団結権団体交渉その他の団体行動をする権利は憲法(第二十八条)で保障せられ、その正当な争議行為により使用者に与えた損害は使用者において請求できないことは労働組合法(第八条)の明かにするところである。労働関係調整法第七条は争議行為を規定するにあたり労働者の争議行為のみならず作業所閉鎖その他の使用者の争議行為を包含させているのであるが、使用者の争議行為については憲法、労働組合法その他の法律にその保障又は免責に関する規定はない。
而して、同盟罷業怠業等の労働者の争議行為は、その行為の性質上、その多くは、それ自体労働契約上の債務不履行となるか或は不法行為となるものとされるから、これらの行為を正当なる争議行為として争議手段に供し得るとなすためには、これによつて生ずる債務不履行或は不法行為の責任を免除する必要のあることは、当然のことと言わねばならない。これに反して使用者は経済的優者として労働者に圧力を加えることができるものであるが、その点はしばらくおき、作業所閉鎖のような使用者の争議行為は、それ自体直接には、労務の受領の拒否に止まり、受領遅滞の問題を生ずることはあつても、労働契約上の債務不履行となるものでなく、また特別の場合を除いては、不法行為となるものでもないとされるのであつて若しこれによつて生ずる責任の免除の有無について考察するとすれば不法行為や債務不履行の責任の有無についてではなく受領遅滞の責任の有無がその対象とせらるべきものと考える。けだし作業所閉鎖が使用者の殆んど唯一の争議手段に供せられるのは、実質上專ら労務の受領を拒否しこれによつて賃金の支払を免れんとするにあるものと解せられるのであつて、それがたまたま不法行為又は債務不履行となる場合においても相手方に対する不法行為又は債務不履行による圧力をもつて争議手段をなさんとするものとは解せられないので、作業所閉鎖においては、債務不履行又は不法行為の責任が免除されなくとも、受領遅滞の責任の免除される限り、その争議手段としての実質的効果は、これを喪わないものと考え得るが、受領遅滞の責任の免除されない限りたとい債務不履行又は不法行為の責任が免除されても、争議手段としての効果を期待し得ないものと考えざるを得ない。
作業所閉鎖の場合における免責につき、現行法が如何なる見地に立つかを見るに、前記の如く、作業所閉鎖を争議行為に包含させる規定をおきながらその免責については何等の規定をも設けず、他方労働者の争議行為についてはひろく免責の規定を設けていること、また、作業所閉鎖が前記の如く同盟罷業等と異りこれにつき債務不履行又は不法行為の責任を免除しなくとも、その争議手段たることを否定する結果とならないこと、作業所閉鎖にかような免責を認めることが却て、同盟罷業怠業等に比しより多くの保護を使用者に許す結果となる虞があるに反し、かような免責を認めないとしても、それが直ちに労使の交渉における対等の原則に反する結果となるとは考えられないこと等に鑑みるときは、作業所閉鎖その他の使用者の争議行為については、労働者の争議行為につき規定されている債務不履行及び不法行為の免責による保護を認めない趣旨のものと解せざるを得ない。然しながら、受領遅滞の責任については、これと同一に断ずることはできない。作業所閉鎖において、受領遅滞の責任を免除しないときは、その争議手段たることを否定するものであること前記の通りであつて、これは、作業所閉鎖を争議行為に含まれるものとした労調法第七条をもつて、作業所閉鎖を単に争議において行われる事実行為として指摘したものとし作業所閉鎖に労働法上の地位を与えることなく、緊急避難乃至正当防衞等の一般私法上の法理によつて受領遅滞の責任が免ぜられるだけで足りるとなすものであつて、勿論直ちにこれを理由のないものとは言えないが、現行法が労働者の争議行為の種類について特に限定せずしかも労働者の争議行為は単に労務の停止だけに止まらず、使用者の生産手段たる物的施設を利用して行う怠業坐り込みストその他各種各様であつて、労働者は広く争議手段選択の自由を有するに反し、使用者がこれら労働者の争議行為に対して、終局的解雇或は緊急避難等によつてやむを得ず行う作業所閉鎖等のごとき一に一般私法上許されたる措置以外に、労働法上何等の対抗的措置をとることを許されないとすることは、一般私法と異る団体的関係である労使間の争議を規律する場合においては、衡平を欠くものと言わざるを得ないこと、また、労組法第一条において労使間の交渉において対等であることを示していることに鑑みるときは、前記労調法第七条は、作業所閉鎖をもつて単に事実行為として指摘したに止まらず、これを同盟罷業その他の労働者の争議行為と同様に法律上の効果をもつ争議手段たることをも示したものと解せざるを得ない。かように作業所閉鎖を法律的にも効果を認められた争議手段と解する限り、その最小限の効果として少くとも受領遅滞の責任については、これを免除しているものと解せざるを得ないものである。次に如何なる作業所閉鎖が正当とされこれにつき右のような免責が認められるかについては、多くの疑問なしとしないのであるが、緊急已むを得ざる場合の作業所閉鎖を正当と認むべきことは勿論なるも、かような場合においては一般私法の法理によつて免責され得るのであるから、作業所閉鎖が正当であるために常にこれを要件とするものとは解し難く、また、同盟罷業その他の労働者の争議行為と同様に、自己の主張を貫徹するために攻撃的にこれを為し得るかについては、争議における労使対等の原則に従えば、これを認めざるを得ないかの如くであるが、作業所閉鎖その他の使用者の争議行為について免責を認めざるを得ない前記のような理由及び使用者が経済的優者としてひろく解雇権を行使し又はこれを警告することによつて労働者に圧力を加え得るのに対し労働者が一般に賃金収入を唯一の生活手段としている事情に照せば攻撃的にこれを為す場合は甚しく強力にして却て争議における労使対等の原則に反するにあらざるやの疑のあること等を考えれば多くの疑問なしとしない。然しながら、右事情を考慮するときは、少くとも使用者はその雇傭する労働者の所属する労働団体が争議行為に出たり又は争議行為を行わんとするときにおいてその主張を抑圧するため自己の保有する物的施設を排他的に掌握し又は物的施設への立入ができないような手段をとることによつて労務の受領を拒否することは、正当視されるものであり、受領遅滞或は履行不能を原因とする賃金請求を拒否し得るものと解するのを相当と考える。もとより対抗手段としての使用者の争議行為がすべて正当であるというのではなく、何らの利益なく又その必要もないのに行う場合やそれに名をかりて労働者の団結権を侵害する目的でなされるときは正当性を失うことはいうまでもない。
二、よつて本件の争議行為たる集団的出勤停止の当否について判断する。原告は昭和二十五年三月十六日に、柵原労組は同月十八日にそれぞれ被告に対し部分ストを含む無期限ストをなす旨通告し(原告の通告が原、被告間の労働協約第二十六条の要件を充足したものであるか否かは別として)、柵原労組は同月二十日に貨車積込作業を放棄し同月二十一日には「のみ」焼員全員二十名の職場放棄、積込作業の一の方二の方各三百五十噸積込後の職場放棄を行つたことは前に説示した通りであり、又証人近藤清巳の証言(第一回)、証人新井友蔵の証言、証人大阪数男の証言及びこれによつて成立を認め得る乙第十九号証を綜合すると、別紙目録記載の百九十四名を出勤停止させるに至つた直接の原因は三月二十一日の「のみ」焼職場の全員ストであり、柵原鉱業所において「さく」岩に使用される「のみ」は「のみ」焼職場において毎日焼直され、焼直し「のみ」は材料運搬員、「のみ」運搬員によつて当日午後から夜半にかけて「さく」岩現場に運搬され「さく」岩職場は翌日それを使用し、使用済「のみ」は翌日坑外「のみ」焼場まで「のみ」運搬員らによつて回収され順次この廻転を繰返し、「のみ」の廻転時間は四十八時間であつて「さく」岩作業はこの「のみ」の廻転が正常に行われること、坑内に残存する焼直し「のみ」(スペヤー)は前日焼直された「のみ」が切羽に到着するまでの待時間における「さく」岩作業の空白を埋める役割をもつものであり通常一日の「さく」岩に必要な各種の「のみ」を合計約六百本とし坑外に存する焼直し中の「のみ」とスペヤーは各同種約六百本づつあることが「のみ」の廻転状況(すなわち「さく」岩作業)としては正常であること、「さく」岩作業が「のみ」の廻転状況不良のため正常に行われないときは、これに関連する礦石運搬作業も影響を受けること、例えば礦石の貯蔵可能の地域と不可能の地域とがあり、前者の場合貯鉱の搬出は「さく」岩作業の停止によつて即時に影響を受けないが、後者の場合採堀作業が中止すれば翌日の運搬作業が停止し運搬作業が停止すれば「さく」岩現場の正常な採堀工程に支障を来たすような基本的な作業工程の関係にあること、又「さく」岩用の火藥を運搬する火藥運搬員とその直接指導職、「さく」岩作業の補助をする内雑員、運搬作業を停止される地域の坑内電車運転員の作業も右各作業と関連していること、従つて一部門の停止又は停滞は関連部門の作業に影響を与え、部門いかんによつては鉱業所全体の正常な運営を阻害するおそれがあること、柵原労組の争議行為は原告及び同労組の通告にあるように部分ストを含む無期限ストであつてどの部分の作業が何時停止し又何時まで続くかは労働者側において自由に決定し且つ被告には無警告であるため、被告としては全体の争議行為の終結はもちろん無警告の部分ストに不安を抱いていたこと等が認められるのであつて、以上の事実によれば被告は少くともこれらの部分ストにより作業工程の紊される不安を排除し鉱業所全体としての正常な作業工程をできるだけ保持し作業工程の紊れることにより生ずる損害を最小限に止める意図の下に右の争議行為に出たことを認めるに十分であり、三月二十三日において「のみ」焼職場のストが「さく」岩その他の部門を自然発生的に停止させるべきものであるかどうかをせんさくするまでもなく、本件争議手段としての関連職種の出勤停止の措置は正当といわなければならない。
従つて坑内残存スペヤーの数が原告のいう通りであつて、三月二十二日の関連職種の作業の遂行が可能であつたとしても、部分ストを含む無期限ストという争議行為中のことでもあり、「のみ」焼職場のストが一日だけで終りその後は絶対に行われないことを保障できる事態にあつたと認めるに足る証拠はないのみならず、被告(柵原鉱業所)が今後継続されるその他の部分ストを含む無期限ストに不安を感じ「のみ」焼職場ストに直接対抗する措置としてその関連職種の作業員に出勤停止を命じたことが争議権の濫用であるということはできない。
もつともこの場合、原告の主張する通り関連職種の作業が可能であるとすればそれを停止するか続行するかは被告の任意であり、それを停止した点に労働基準法第二十六条にいわゆる使用者の責に帰すべき事由があるようにみえるが、その休業命令を受けた従業員が、争議を開始し又は開始しようとした労働組合の所属員としてその統制を受け、使用者の争議行為が当該労働組合の争議行為に誘発された正当な争議行為である限り、同条の適用を受けないものと解すべきである。けだしこのような場合に休業の責を負わすことは使用者の正当な争議行為に賃金支払義務の免責を認める前記意義を失わしめるからである。
第三、原告は被告の本件休業が全鉱対経連間の労働協約第十条、原告対被告間の労働協約第二十六条に違反すると主張する。
一、しかし全鉱対経連間の労働協約第十条が争議行為としての作業所閉鎖の事前協議を定めたと認むべき証拠なく、反証のない限り文理上も平常時における経理上の理由に基く工場閉鎖を定めたものと解すべきである。
二、又原、被告間の労働協約第二十六条は、原告又はその加盟組合及び被告に対して争議行為をなすには交渉決裂後四十八時間前に通告をなすべき義務を定めたものであり、被告が本件休業をなすに際し四十八時間前に原告及び柵原労組に通告しなかつたことは被告の自認するところである。しかし同条は反証のない限り、その主旨とするところは拔き打ち争議による相手方の損害を最小限に止めるためこれを禁止する旨を協定したものであり、一旦労使いずれかが争議行為を開始した後の措置を協定したものでないと解するのが最も合理的である。なるほど文字上は原告のいう通りいずれか一方が争議行為に入つたと否とを問わないものであるが、既に一方が争議行為を開始した以上相手方が争議行為の相手方として対抗手段をとるのは事理の当然であつて、その対抗手段の行使までも時間的に制限した趣旨とは考えられないからである。よつて原告の主張はいずれも採用できない。
第四、原告は、被告の本件休業は不当に賃上要求を抑圧せんとしたもので目的において不当であると主張する。
一般に使用者が収益をあげ原告の賃上の要求に応じ得べき経営状況にあるとしても、労働条件をいかに変更し決定するかは終局的には労使の交渉によつて決定すべきものであり、被告が原告の要求に応じないからといつて直ちに不当であるということはできない。労働者が過大な賃上要求をしてもそれが終局的に合理的な妥結に達する意図を失わない限り直ちに不当な目的ということができないと同様、使用者がその資産収益の面からみて過小に労働者の主張を抑圧しようとしても合理的な妥結の意図を失わない限り、それは交渉上の駈引とみるべきであり、当事者間に争いのない本件争議経過(「事実」掲記の(乙)被告の主張事実中第三の一、二に記載した部分)と成立につき争いのない乙第十号証を綜合すれば、被告は最初原告の要求に応じなかつたとはいえ、要求拒否自体不当とはいいがたく被告の争議行為が生存権の抑圧を目的としたと認めるに足りる証拠はない。
第五、原告は被告の本件休業は打撃的な加害を目的とする争議行為であるから権利の濫用であると主張するが、既に認定した通り被告の取つた措置は被告会社にとつて必要あり且つ損害を避けるためのものであつて、そのため柵原労組の組合員が損失を蒙つても止むを得ないところであり柵原労組に対する不法な加害を目的としたものと認めることはできない。
第六、原告は被告の本件部分的休業は不当労働行為であつて保護に値いしないと主張する。
元来使用者の争議行為としての作業所閉鎖は使用者が労働者を生産手段たる物的施設より事実上排除し自己の支配下に置く事実行為をいうものと解するのであるが必ずしも施設全体を支配下に置く必要はなく構造上分離して支配できるものは一部でもなし得るのであつて、本件のようにその施設が構造上分離できず番割の請求を拒否して事実上坑内へ立入らしめないような措置をとることによつてもこれと同様の目的を達し得るのであり、部分的作業停止が可能である如く部分的作業所閉鎖、立入禁止措置も又可能であり、部分的争議行為自体をそれだけで違法とする理由なく、又それが争議行為の目的を欠き特定人に対する差別待遇ないしは団結権の侵害を意図するものであれば格別、かような事実を認めるに足りる証拠のない本件においては原告のこの主張を採用することはできない。
以上の次第であつて、原告の前記主張はいずれもこれを採用することができなく、被告の抗弁は理由があり、就業拒否による履行不能につき被告に責あるものと言えないから被告に原告主張の賃金並に附加金の支払義務のないことが明かであるので原告の本訴請求は失当として棄却すべきものであり、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 脇屋寿夫 三和田大士 緒方節郎)
(別紙目録省略)